Web音遊人(みゅーじん)

ヘッドホンアンプ「HA-L7A」

ヘッドホンリスニングの世界をより深く、自由に楽しむために。ヤマハ初のヘッドホンアンプ「HA-L7A」

2023年11月30日に発売の、ヤマハ初のヘッドホンアンプ「HA-L7A」。据え置き型で本格的なヘッドホンアンプだ。現在多くの人に人気のヘッドホンだが、主にスマホなどと組み合わせて使われることの多いワイヤレスイヤホンをはじめとしてさまざまな種類があり、価格帯も広い。そして、音にこだわった本格的なヘッドホンには、ヤマハの「YH-5000SE」のように、スマホやコンパクトなデジタルオーディオプレーヤーでは十分に実力を発揮できないものもある。そんなヘッドホンを鳴らすためのオーディオコンポーネントがヘッドホンアンプだ。あらゆるヘッドホンをしっかりと鳴らしきり、個々の音の違いを存分に楽しめること。そしてさまざまな音楽や映画、ドラマ、アニメといったコンテンツをより楽しめるヘッドホンアンプとして、HA-L7Aは開発された。その製品の特徴についてヤマハミュージックジャパンの北澤雅幸さんに話を聞いた。

L字型のユニークな形状と、ふたつの円筒が印象的な外観

HA−L7Aのサイズは横幅333mm、高さ133mm、奥行き189mm。横幅430mmのオーディオコンポーネントほど大きくはないものの、それらと組み合わせて使いたいユーザーにも対応する本格的な作りとなっている。印象的なのは真四角ではないL字型の形状をしていることと奥にあるふたつの円筒だ。音質の良さを象徴するとともに、ヘッドホンリスニングを楽しむために工夫された形状だという。

ヘッドホンアンプ「HA-L7A」

「このモデルはヤマハのフラッグシップヘッドホン『YH-5000SE』を鳴らすこともできる高級価格帯のヘッドホンアンプですが、専用に開発したモデルではありません。他社を含めたさまざまなヘッドホンをしっかりと鳴らし切れる実力を持ちながらも、エンタメ性を重視したハイエンドモデルです」(北澤さん)

まずは外見から見ていこう。前面にあるのはヘッドホンを出力する端子で、6.3mmの標準ジャック、4.4mmのバランス端子、XLR4ピンのバランス端子が備わっている。最近のヘッドホンは一般的な標準ジャックやステレオミニ端子のようなアンバランス接続に加えて、バランス接続が行えるものも増えている。バランス接続はプラス信号、マイナス信号、グラウンド信号を独立して伝送する方式だ。高級オーディオやスタジオ向けの業務用機器で採用される、ノイズに強く信頼性の高い接続方式で、高級ヘッドホンをしっかりと鳴らすために今や欠かせない装備だ。

背面を見ると、オーディオ機器との接続も可能なプリアウト/ラインアウト用のバランス/アンバランス出力端子が各1系統、アナログ音声入力端子が1系統、光デジタルオーディオ入力1系統、同軸デジタルオーディオ入力1系統、パソコンなどとの接続用のUSB type B端子がある(USB A端子はファームウェアアップデートに使われるもの)。対応するデジタル信号はPCM最大384kHz、DSD最大11.2MHzとなっている。HA-L7Aはヘッドホンを駆動するパワーアンプのほか、プリアンプ機能、D/Aコンバーターも内蔵しているのだ。

ヘッドホンアンプ「HA-L7A」

ES9038PRO採用のD/Aコンバーターと、ヤマハ伝統のフローティング&バランス・パワーアンプを搭載

D/Aコンバーターには、ESS社のES9038PROを採用。8chのDACを持つチップで、左右で4chずつ並列して使用することでS/Nとダイナミックレンジを確保した設計だ。

「DACチップの選択にはさまざまなものを試し、そのなかでES9038PROがもっとも適しているとして選ばれました。なお、ふたつのDACチップを使うDual DAC構成としたヘッドホンアンプもありますが、Dual DACはふたつのDACチップを駆動するために高い消費電力が必要になり、発熱の原因となって音質に悪影響を与える可能性があるなど設計が複雑になりやすいのです」(北澤さん)

パワーアンプなどのアナログアンプ回路は、ヤマハのオーディオコンポーネントでも使われている「フローティング&バランス・パワーアンプ」を搭載。出力は1000mW+1000mW(1kHz、0.01%THD、32Ω)。原理的にグラウンドノイズの影響を受けることがなく、回路規模が小さくコンパクトなサイズを実現できることなどの長所がある。

そのため、電源部には2つのトロイダルトランスを採用している。トロイダルトランスとは、トランスのコアがドーナツ状の形をしているもの。漏洩磁束が少ないトロイダルトランスを使い、コイルは電圧変動が少ないバイファイラー巻線としている。かなりこだわった電源部だ。

なお、2つのトロイダルトランスは、小信号(プリアンプ)部とパワーアンプ部でそれぞれ独立している。各部の干渉を防ぐためだ。そして配置はふたつの円筒のパーツがついた部分にある。L字型のボディが異なるふたつの四角形を組み合わせた印象があるが、電源部をしっかりと独立させるための形状でもあるのだ。

ボディは高剛性を意識した設計で、トップパネルは8mm厚、ボトムカバーは2mm厚、バックパネルは2層構造としている。さらにトロイダルトランスは2mm厚鋼板を使った専用のマウントベースを使用。そのため、重量も5.3kgとずっしりと重い。実際に持ち上げてみると重量感はもちろん、がっしりとした頑丈な作りが手に伝わる。

ヘッドホンアンプ「HA-L7A」

(左)独自の高剛性コンストラクション。(右)電源部には2つのトロイダルトランスを採用。

多彩なコンテンツを楽しむための機能「サウンドフィールド」モード

今回、ヤマハならではの提案として搭載された「サウンドフィールド」モードは、ステレオ音声をより立体感のある音場で再現するもので、シネマ/ドラマ/コンサートホール/アウトドアライブ/ミュージックビデオ/バックグラウンドミュージック(BGM)の6種類がある。これに加えて「サウンドフィールド」モードがオフとなりステレオ再生となるPureDirectも選択できる。本格的なヘッドホンアンプではめずらしいエンタメ性を意識した機能だ。

「6種の『サウンドフィールド』モードは、それぞれに特長を持たせた音場設計がされています。これはヤマハのAVアンプが搭載する『シネマDSP』の技術を応用したものです。ヘッドホンやイヤホンで楽しんでいるコンテンツは音楽だけではなく、映画などの動画などもあります。こうしたコンテンツをより臨場感豊かに楽しむための機能です。映画や動画コンテンツを楽しむときだけでなく、じっくりと音楽を楽しみたいときは『PureDirect』で、読書などをしながら気持ち良く音楽を聴きたいときは『バックグラウンドミュージック(BGM)』など、気分に合わせて使い分けることもできます」(北澤さん)

ヘッドホンアンプ「HA-L7A」

反面、機能は厳選している。機能が増えれば回路も増えるし音質への影響も増えてしまうからだ。このために設計陣が模索の末機能を絞っていったという。

優れた駆動力と豊かな情報量を備えながらも、気持ち良く音楽を楽しめる音

YH-5000SEとの組み合わせで試聴をしてみたので、その印象をレポートしよう。YH-5000SEはヤマハ独自の平面磁界ドライバー「オルソダイナミックドライバー」を搭載したモデルで、ダイナミックでキレ味鋭い鳴り方をする。HA-L7Aと組み合わせても、YH-5000SEをきちんと駆動し、S/N感が良く情報量も優秀だ。特に音場の広がりの豊かさ、頭の中で音楽が鳴っている印象になりやすいヘッドホンとは思えない、音楽に包まれているようにも感じる音場感は見事なもの。

ヘッドホン「YH-5000SE」

ヤマハのフラッグシップヘッドホン YH-5000SE

YH-5000SEの良さはしっかりと引き出しつつ、それでいてあまり生真面目な音になりすぎない絶妙なバランスの良さがHA-L7Aの最大の魅力だ。久石譲指揮ロイヤル・フィルによる『ジブリ音楽集』から『風の谷のナウシカ』の曲をいくつか聴いたが、ドラマチックなメインテーマや戦闘時に使われた勇ましい音楽などを力強い音で鳴らしながらも、音の感触が柔らかく、激しく鳴り響く大太鼓などの音もどこか優しい。また、混声コーラスによる合唱もハーモニーが美しく響き、実に表情が豊かだ。YH-5000SEは高解像度にこだわったヘッドホンアンプと組み合わせると、姿勢を正して音楽と向き合うことを強制されるような厳しさも持ち合わせるのだが、HA-L7Aではそうした厳しさはあまり感じさせず、自然な音色と生き生きとした音楽だけを楽しめる音になる。高級ヘッドホンアンプが生真面目な音のものが多い傾向があるなかで、こうした音楽を楽しむことを重視した音に仕上がっているのはなかなか個性的だ。

そして、「サウンドフィールド」モードを組み合わせるとさらに楽しい。映画用の「シネマ」で聴いてみると、目の前にスクリーンが現れたような音場感になり、『風の谷のナウシカ』を見ているような気分になる。音楽として楽しむならば音楽向けの「コンサートホール」を選ぶとまさにホールでオーケストラ演奏を聴いているような豊かな響きに包まれる。ヘッドホンらしからぬ開放的な音場が楽しめる「アウトドアライブ」もなかなか楽しい。

これらをコンテンツや気分によって選べば、音楽がより楽しくなるし、映画を劇場に近い迫力と臨場感で楽しむこともできる。個人的にはゲーム向けのモードを欲しいと感じたが、ゲームの内容に合わせて「シネマ」や「ドラマ」を選べば十分にゲームでも楽しめそうだ。

「春のヘッドホン祭などのイベントで参考出品させていただきましたが、音質はもちろんのこと、『サウンドフィールド』モードの搭載が面白いと言っていただけました。実際、音楽鑑賞だけでなく、映画やテレビドラマ、各種の動画などをヘッドホンで聴いている方も多くみられます。さまざまなステレオソースをより良い音で、更に多彩に楽しんでいただければと思います。」(北澤さん)

このようにHA-L7Aは、じっくりと音楽と向き合いたい、手持ちのヘッドホンの実力をしっかりと引き出したいという人にとっても十分な実力を持ちながら、音楽や多彩なコンテンツをより深く楽しむことができるものに仕上がっている。これはなかなか異色の存在で、独特の魅力を持ったヘッドホンアンプだと感じた。ヘッドホン再生は周囲への迷惑になりにくく、より自由なスタイルで音楽を楽しめることも大きな魅力だ。HA-L7Aがあればその魅力を一層実感できると思う。ヘッドホン再生にこだわる人はぜひとも注目してほしい。


Yamaha Headphone Amplifier HA-L7A Overview

■ ヘッドホンアンプ HA-L7A

長年に渡り培われた高音質アンプ技術を結集し、独自の「サウンドフィールド」モードを搭載したヤマハ初のハイエンドヘッドホンアンプ。
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